英語教材……使わなければ学びなし

このところフォニックス/サイトワード教材の選択でずいぶんと迷ってきた。結局、気になってしょうがなかった教材の一部を思い切って試しに購入した。それを検討した結果、よくあるドリル形式のものは(少なくとも当面は)選ばず、しばらくのあいだCD付絵本教材を使ったチャンツ遊びとミニ絵本を作るワークの併用で進めてみることにした。そのほうがお勉強チックでなく、子どもたちにも飽きが来ないだろうと判断した。

それにしても、我ながら、何でこんなに教材選びに熱心なんだろう……と笑ってしまう。つまるところ、自分の子に少しでもよく学ばせたいと思ってるからなんだろう。ひととおりの教材だったら、とっくに揃っているのだから、お金のためだけに教えているんだったら、とてもここまではできない。

ただし、どんないい教材でも、ものは使いよう。いくら「いい教材」を与えても、子どもが使わなければ意味がないし。それに、フォニックスやサイトワードといった手法への過剰期待も禁物。そんな学習法を知らなくたって、わたしたちの多くは英語を読めるようになったではないか。生の英語に大量に触れれば規則性は身につく。少量しか触れてないのに、効率的に規則性を覚えさせようとすると、“丸暗記”に頼ることになり、学習活動が苦行になる。

丸暗記と言えば、最近の暗唱ブームのせいか、アウトプットを焦る人があまりに多いことに愕然としている。そもそも2〜3歳で“Hello!”と言えたとか、幼稚園児で“My name is...”と挨拶できるようになったからといって、そんなレベルで、本当に英語が身についたなんて言えるわけはない。外国で育った子は、驚くほど短期間に他の子と遊ぶのに不自由ないくらいの会話力を身につけるが、帰国したとたんに忘れてしまうことは、帰国子女をもつ親御さんたちに共通した悩みだ。松香洋子先生によれば、おおよそ9歳くらいまではインプット優位でいいのだから、ほーんのぽっちりアウトプットがあってもなくても、気にしない、気にしない!

そもそも、耳のいい乳幼児期に英語を(それを言うならどんな言語でも)そのまま聞かせたら、オウム返しに繰り返せるようになって当前なのだ。その当然が、まだまだ常識になっていないらしく、そこにつけ込んだセールスが横行している。

子どもたちはABCソングを聴かせれば、すぐに全部歌えるようになるし、アルファベットの文字と一緒にそれを刷り込めば、26文字なんてやすやすと覚える。ビデオに出てくる挨拶も、歌もまるごと覚えてくり返す。短いCD付絵本を暗唱することもできる。そこまでは比較的簡単だし、たいてい誰でもできる。実際、問題はそこからどうするのか、なのだ。どうやれば持続的な英語学習に結びつけていくのか……が分かれ目であり、そこからが難しい。

そこまで来て(あるいは、もっと以前に)、何十万円もの教材セットに希望を託す人たちがいる……その気持ちはよくよく理解できる。だけど一歩引いて考えてみよう。実際、家庭用英語学習教材会社は、「これ一式あれば、うちの子はぺらぺらになるかも!」という幻想を売っている、とも言えるのだ。わたし自身、A社もB社もC社も……ずいぶんと迷ってあれこれと検討した。しかし、最終的にはいろんなものを“バラ”で買うことにした。

というのも、そうしたセット教材が、インターネットで「未開封」の新中古として大量に出回っているのに気づいたからだ。そうやって売られていること自体、「使わずに終わる」ケースがけっこうあることの証拠だ。もし何十万円もかけて購入しても、“うちの子”が使わなかったら全く意味がない。教材は使わなければ何も学べない。だったら、いろいろと試してみて、本当に娘が気に入るもの、本当に使いそうなものが分かってきてから買えばいい……と思った。

セット教材を検討していた当時、“うちの子”は1歳になるかならないかだった。その年齢では、来る数年のあいだに娘が何を好きになるか、何を拒否するかは皆目見当がつかなかった。(実際、赤ん坊の頃には想像もつかなかったような子どもに成長している。)もちろん、ある程度は親の恣意で「好きにさせる」ことはできるかもしれない。でも、1歳児に対して、ひとつのシリーズ*1で“揃える”のは、あまりにもリスクが高すぎるように思えた。なにしろ予算には限りがある。なのに、世の中には魅力的なシリーズ、魅力的なキャラクターが数えきれないほどある。仮に、当時娘が好きだったキャラクター(セサミは大好きだった)で全部揃えたとしても、その“好き”がいつまで続くかは分からなかった。半年後、他のキャラクターが大好きになって、買った教材は見向きもしなくなったら、いったいどうすればいいのだ? 1歳の時点で、そのなかのひとつを好きであり続けることを期待するなんて……到底無理だと思った。

今にして思えば、わたしがそういう判断をしたのは、海外に住んでいた友人や弟のところからもらったアメリカの幼児番組を録画したビデオを何本も観ていたためかもしれない。ディズニーチャンネルPBSジュニアには、「子どもが好きそう」な番組は山ほどあった。親が惹かれるキャラクターもいっぱいあった。(それに、日本に入っているものとは違って、肌の色の違う子が出てきたり、絵柄が特徴的だったりして、バラエティに富んでいた。)

しかも今の時代、そうしたキャラクターのそれぞれに学習絵本やビデオ、ワークブックが出ていて、インターネットで購入できる。テレビになっていないものでも、たとえばDr.SeussやRichard ScarryWee Singといった欧米の子ども向け学習用定番シリーズがいくつもあると知った。ネイティヴの子ども用なので、親のわたしにとっても見応えがあり、これなら「子どもと一緒に観ても苦痛じゃない」とも思った。*2親にとっても金太郎飴でなく、いろんなものを取っ替え引っ替えのほうが飽きが来なくて、かえって「続けられる」んじゃないかという気がした。*3

だったら、たった一つのシリーズやセットに大枚をはたくのではなく、もうちょっと娘の様子を観察していて、いいとこ取りしたほうがいいのでは?――というのが、我が家の結論だった。

……とはいえ、結果的にうちほど娘の英語にお金をかけてきた家はめったにないとも思う。金額だけを考えれば、W社のセットをひと揃い買ったほうが安くついていたかもしれない。ただ、一シリーズのセットしか持っていなかったら、果たしてこんなに娘の英語熱が続いてきただろうか……というと、かなり疑問である。

つい最近、バーゲンで入手した英語の音楽ビデオ3本を娘に与えた。中を観て、わたしは「やっぱり安かろう、悪かろうだった」と買ったことを後悔したが、娘は目先が変わっておもしろかったらしく、しばらくのあいだ何度も観たがった。おまけに、それをきっかけに、はるか以前に観たビデオをひきずりだして観たり、ずっと歌っていなかった童謡を歌ったりもしていた。そんな様子を見ていると、少なくとも、今の娘の性格を考えると、セットで揃えなくて本当によかった……と思える。うちの子の場合は、手を変え、品を変え、目先を変えて、あれこれ与えてきたからこそ、英語遊び*4が続いてきたのだと思うから。

子どものためにW社のセットを買ったものの、結局、ほとんど使わなかったという知り合いは、「結局、親が(キャラクターが)好きで自分のために買っているのよ」と言っていた。もちろん、わたしは人のコレクションについて、とやかく言うつもりは全くないし、趣味で集めたいのなら、それでいいと思う。何十万もする百科事典を特に使うあても、使うつもりもなく飾っている家だってある……貧乏性のわたしはもったいないなぁ、とつい思ってしまうけど。

それに、コレクションだってときに悪くないものだ。わたし自身、自分のためにディズニー映画の絵本&CDセットを買って飾っていたことがある。*5「娘は使わないかもしれないけど」と思っていたので、1万数千円を払うのにけっこうな勇気を必要としたけれど。*6幸い、娘はそのうち半分くらいをよく視聴してくれた。だが、それは結果論にすぎない。

ふだんのわたしは、お試しで買った500円程度のドリルを目の前に、「これをどこかでどうにか使えないかなぁ……」などと頭を悩ませている。

P.S.この文章を書いているのと行き違いに、某社の教材セット(通常は、うん十万する)を買ったので、どう使えばいいか教えてほしいという相談メールが来ました。わたしがセミナーでお話ししたことを“誤解”して購入に踏み切ったらしい様子がうかがわれ、少なからずショックを受けてしまいました……。詳しくはまた書きますが、高い教材を買うときには、聞きかじったことで判断するのではなく、くれぐれも熟慮してくださることを願います。

*1:たとえば、ディズニー、セサミストリート、GOGO……

*2:子どもがしつこいことは知っていたので、たとえば「ドラえもん」のビデオを30回くり返されたらわたしは気が狂うと思ったけれど、セサミだったら、何度観ても新しい発見があるんじゃないかと考えた。

*3:これは、わたし自身の性格に大きく拠ることなので、万人がそうだと言っているわけではない。また、シリーズものの教材が絶対的にダメだと言っているわけでもない。ただ、絶対的にいいとは言えないし、娘が7歳になった今振り返ると、うちの場合はたぶんあまり使わずに終わったんじゃないか……と思う。

*4:学習とはとても言えない

*5:理系だけど読書家であるわたしの父は、文学全集を何セットも買っていて、そのおかげで、結果的に娘のわたしはいわゆる名作をほとんど読破した……ただし、1歳半年下の弟は、たぶん1冊も読んでいない。

*6:20本程度のディズニー映画がぺらぺらの冊子とCDになっていたあのセットは、残念ながら今は売っていないようだ。