英語は異文化コミュニケーション

いろいろ偶然が重なってのことだったが、娘のたっての希望もあり、市内の某教室に半年ほど通わせた。ALTで1年ほど日本に滞在している外国人の先生(児童英語については素人も混じっているような?)を代わるががわる使っていて、「次はこの絵本を読んで」「次はこのカードでゲームをやって」というふうに日本人の先生が指示で動かしているような教室だ。なのに、外国人が教えているためか、けっこうな人数の子どもが集まっていた。

娘が参加したクラスは低学年中心で、未就学児も混じっていたため、ほとんど遊びだけの45分間だった。あちゃー、未就学児の英語サークルみたい!が第一印象。私自身が行っているレッスンよりも時間は短く、料金は高い。週2回クラスになると、うちの教室の2倍近いと聞いてびっくりさせられた。でも、たまたまわたし自身がレッスンのある時間帯に、空きがあると言われたので、娘を預ける場所に困っていたわたしは、すぐさま体験レッスンに娘を連れていき、娘のお気に召したのを幸い、しめしめ助かったと、翌週から通わせることにした。

ふたを開けてみたら、娘自身はこのレッスンが大のお気に入りになった。第一には若い外国人の優しい先生と仲良くなったためだろうけど、授業参観してみて、それ以外の理由も判明した。何しろゲームと歌と絵本読み(外国人先生の後に続けて復唱する)がメインの単純なアクティビティばかりなので、娘にとっては既知のことばかり。何をやっても真っ先に分かるため、娘は大得意というわけだ。参観で動物の名前のカルタをしていたときにも、このスクールに3歳くらいから通っているという子どもたちより、総じて娘の反応は早く、他の子が誰も知らない動物の名前も知っていたし、発音も良かった。(英語ネイティブスピーカーの先生も驚いていたので、親の欲目だけではないと思う。)おまけに一学年上の女の子(Bちゃんとしておこう)と仲良くなった。娘はその子が大好きで、いつもじゃれあっていたようだった。

ところが……それがあだになったらしい。3月初め、来期に参加するクラスについてスクールから何度も打診が来るようになった。だけど、他のおけいこごとの時間変更や、3年生から始まる6限目が何曜日になるかが分からなかったので、答えを保留していた。ところが、3月の終わりになって、「娘さんは5,6年生と一緒のこの日時のクラスしか受け入れられませんから」とスクールの代表から電話がきた。

そもそもここのスクールで娘が「習ってくること」について、わたしは高望みしていなかった。どうせどこかに子どもを預けなければならないなら、「外国人の先生とふれあって、楽しい時間を過ごせる」だけでもいいかなと思っていた。そこで、「うちは、低学年のクラスのお友達と一緒でいいので、前の時間帯のレッスンにしてくれませんか」と聞いてみた。ふと思いついて、「娘が仲良くしていたBちゃんも、そこなら一緒でしょう?」と聞いたとたん、先生の声音が変わった。その子のお母さんから、「Kちゃん(うちの娘)は日本語ばかりしゃべるので、一緒にしないでほしい」と言われたから、それはできないというのだ。おまけに、「低年齢クラスは新しい子どもたちが入ってくるので、Kちゃんのようなおしゃべりがいてはその子たちが萎縮してしまうので困る。同学年のもう一人の男の子もKちゃんとのケンカが原因で別枠のレッスンに移ってしまった。学年が下のCちゃんのママも「Kちゃんと一緒では嫌だ」といってきたなどと思ってもみなかったことを矢継ぎ早に言われた。

がーーーーーーん!

いったい何事が起きているのか、一瞬、理解できなかった。つまり、娘はトラブルメーカーで、上級生、同級生、下級生3人の子どもたちとその保護者から、揃って「一緒にレッスンさせたくない」と言われているというのか???

だが冷静になって考えてみると、娘はわたし自身が開いているレッスンでも、自分の言いたいことがあったら(それを英語で表現できなければ)平気で日本語をしゃべる。(こういうタイプの子は、少なからず存在しているはずだ。)裏を返せば、コミュニケーション意欲が盛んで、「英語の場」に萎縮していないのだとも言える。そのこと自体はすばらしいことだ。あとは、それをどうやって(日本語よりは表現力も単語も乏しい)英語での発話に仕向けていくのかであって、それが、教える者にとっての醍醐味でもあり、義務でもあるだろう。

実際、わたしの乏しい経験からしても、"In English?"や"What do you say that in English?" と返したり、"No Japanese, please!"などと言うだけで、けっこう日本語でしゃべるのは収まるはずだ。いったいどうやって指導しているのか……と質問を重ねていったら、しどろもどろの反応。しまいに、「自分はその場にいなかったから」と言うので、「その場にいて事情の分かる先生から話を聞きたい」と言った。春休み中にかけてくるという約束はすっぽかされ、二度目の約束を取り付けてからも、すでに2週目だがまだ連絡はない……。

この教室はスタッフが多い。英語ネイティブ・スピーカーのレッスンを何人もの日本人スタッフが取り巻いて見ている。あれではうちの子だけじゃなく、子どもたちが日本語を話しても当然ではないかと、わたしは指摘した。だって日本人の大人同士が「A先生には、次、これをやってもらうから、カードもってきて」などと日本語で話しているような環境では、子どもたちだけ英語を“禁止”しようとするのは不自然だし無理がある。最低限、先生同士も教室の中では英語でコミュニケーションするようにして、子どもが日本語を使ったときにはユーモラスにたしなめるなどして、「ここは英語の場だよ」という雰囲気を作るべきだったんじゃないか。そういうことをした上でも、「どうしても英語を使わず、頑迷に日本語で話す子」がいるのも確かだ。しかし、うちの娘の場合、それはまず考えられない。

最終的にそこの先生からは、うちの娘には「5〜6年生の子どもたちが来ている(曜日も時間も違う)別のクラス」がぴったりだし、「そこしかない」と断言された。「そのクラスならおしゃべりも英語だから、娘さん自身にとっても、それが一番いい」と言うのだ。(ホントかなぁ〜、仮に「英語で自由におしゃべりできる」くらいの子だったら、うちの娘にはついていけないだろうし、逆に本当にうちの娘に「ぴったりのレベル」なのだとすれば、娘より2〜3年上のその子たちは、今までどんな英語の指導をうけてきたというのだろう???)ともかくも、年齢的に妥当な他のクラスは、どれもうちの娘と「一緒にできない」お子さんばかりなので、どこにも入れられないの一点張りだった。

そうだとしても……小学生にとっての2〜3学年差は大きい。低学年から見たら、5、6年生は大人と変わらないほど大きく見えるものだ。娘にこのクラス替えのことを話したら、すぐさま「行かない!」という答えが返ってきた。「何で?」と言ったら、「だって怖い」。「怖くないよ、きっとかわいがられるよ」「だって……先生も違うし、Bちゃんもいないんでしょ。つまんない、行きたくない!」これまで英語ならば(いや、何に対しても)好奇心いっぱいで、人なつっこい我が娘にしてこうである。英語以前の話だ。

わたしは娘を英語嫌いにしたくない。だから常に“強要”はしてこなかった。今回も同じ。そのスクールは、娘の希望通りやめることにした。

またしてもおけいこごとが減った……と思いきや、好奇心旺盛で何でもやってみたい娘のこと、今度はキッズゴスペルをやると言い出している。おやおや……と思っていたところに、鳥飼玖美子さんの『危うし! 小学校英語』を読んだ。

鳥飼さんは、どちらかといえば小学校英語の義務化に反対している人で、中学になってから「文法」と「音声」をしっかり学び始めればいいと主張しているのですが(ただし、もちろん、従来の英語教育の「文法学習」を踏襲せよという訳ではありません……詳しくは下記の鳥飼さんの本をお読みください)、小学生についてやるのであれば(必ずしも英語のみにこだわるのでなく)「コミュニケーションを積極的に図ろうという態度の育成」や「異質なものへの開かれた心」を育てることを奨励しているのです。

我が意を得たり……です。そう、上述の英語教室では「困った子」と決めつけられた我が娘は、日本語であろうと何であろうと、クラスの中で「コミュニケーション」をしようとしていた。「自己主張」していたのだな……と気づかされました。鳥飼さんは、次のようにも書いています。

……「黙って先生の言うことを聞きなさい」「親に口答えするもんじゃありません」と子どもをしつけながら、英語の時間だけ、外国人に対してだけ、「積極的に話しなさい」と要求することは、おとなの都合を子どもに押しつけていることになります。
 「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」ということは、場合によっては、親に反論し、先生の話をさえぎって質問し、率直に疑問を口にすることでもあり、「素直でおとなしい子」ではなく、「うるさく生意気な子」である可能性があります。

ちょっとほっとした……。うちの娘がうるさいことは間違いないのだが、そろそろ「生意気さ」も身につけてきたのかもしれない。何にしても「素直でおとなしい子」でないことは、間違いなさそうだ。

それでもわたしは、「和を尊ぶ」という名の下に沈黙するのに慣れさせていくような教育はしたくない。互いに違いをぶつけあいながら、他者と出会っていくような子どもたちを育てたい。異文化コミュニケーションというのは、まさにそうなのだから。英語はコミュニケーションの道具。「言語」だけを教えればいいというものではないのだ。

危うし! 小学校英語 (文春新書)

危うし! 小学校英語 (文春新書)

2008/4/16に書き直しました