金沢市が国の「英語特区」に認定されていることは、ご存じの方も多いでしょう。だけど10年前から市内すべての公立小学校で英語活動を導入した例は、全国的にも珍しいこと、市独自の小中一貫の英語カリキュラムや副読本を独自に作成していることなどは、あまり知られていないようです。じつはわたし自身もそうとは知らず、先日、名古屋で開かれたJ-Shine児童英語教師認定講座に出席したときに伺った講師の話で初めて知ったのでした。「金沢はいいね〜」「うらやましい!」と何人からも声をかけられ、これまで「金沢には英語活動をしているグループがないから……」と嘆いていたわたしはびっくり!
 アルク社の雑誌『子ども英語』(2006年3月号)に、小学校英語教育導入のいきさつを語った石原多賀子金沢市教育長のインタビュー記事が掲載されているというので、さっそく読んでみました。一読して、さまざまな批判を浴びながらも、「今の子どもに与えられる最善の教育をしたい」という石原教育長の信念と熱意が、この制度を実現させたようにも感ぜられました。

音声から学ばせる
 以前のKEN Newsーで、小学校一年生の英語活動で、アルファベットと同時にフォニックス*を教えていたことをレポートしました。フォニックスは、小学校の半ば以上に教えるというのが定番なので、少々驚いたのですが、今回、このインタビュー記事を読んでみて、根本に「音声を中心とした英語教育は、年齢が低く柔軟なうちのほうがおこないやすい」という石原教育長の方針に則ったカリキュラムだったことが確認できました。「鉄は熱いうちに打て!」と言います。英語というのでひとくくりにすることなく、年齢に合った適期教育が有効なのは、そのためです。
 まねっこ遊びが大好きな乳幼児に英語の歌を聞かせれば、どの子もきれいな発音で歌えるようになります。いい音をいっぱい聞いて、真似るのをくり返せば正しい発音は身につきます。ただこの方法は効率が悪いので、ある時点からはフォニックスのように系統だった教え方が必要になるのです。
 余談ですが、小学校で教えている知人から、「3、4年生になると、特に女の子は恥ずかしがって口元を隠したりするから、発音の指導がやりにくい」といった話を聞いたことがあります。そうした子どもたちの心理を考慮しても、恥ずかしがらずに大きな口をあけてくれる小さい頃に「音声」を教えていくことは重要でしょう。

音から文字へ
 幼児や学童期から英語を始めることの利点は「音声」だけに限りません。石原教育長は、文字指導についても積極的にお考えのようです。わたしの経験に照らしても、「音声」がきちんと入っていて、アルファベットを覚えた子は、すぐに文字や単語に関心をもつようになります。単語がぽつりぽつり読めるようになれば、自分で本を読むようになるまでは、あと一歩です。
 ただし、そうした段階は個人によって大きなばらつきがあります。英語のeducationはもともと「引出す」という意味だそうです。「教え込む」のではなく、子どもたちの持つ力を「引出す」のです。帰国子女が珍しくなく、学校外で英語を学ぶ子が増えている現在、それぞれの子の「英語への関心をさらに高める」ためには、一律で授業することについても議論される日がくるかもしれませんね。

フォニックスとは音声学のこと。英語教育ではアルファベットが文字のなかでどう読むのかを教えます。たとえば「A」は「エイ」という読み方だけではなく、ひしゃげた「エァ」みたいな音として、「B」は「ビー」だけではなく「ブッ」という破裂音として教えます。