小学生の娘と歌劇「ラ・ボエーム」鑑賞に

金沢市では歌劇座を作って以来、いろいろとオペラの公演をしています。去年の「カルメン」は、音楽堂の子ども向けクラシック・コンサートに連れていったときの娘の態度を見ていて(大声をたてる、途中でトイレに行きたがる、疲れてくるとぐずるなど)、「まだ無理だな」と判断し、諦めていました。だけど、今年の公演は、なんと博士論文締め切りの当日! そう気づいた瞬間、「絶対に書き上げて観に行くぞ!」と、自分を盛り上げようとする勢いで、小学3年生の娘と2人分(連れ合いは出張でいないと分かっていたので)チケットを購入してしまったんです。

しかし、そのために、「カルメン」以上に盛り上がりに欠ける「ラ・ボエーム」を、いかにおとなしく鑑賞させるのか……という難題を抱えることに。本当は、寝ててもいいから、母はゆっくり鑑賞したい。しかし、どうせなら、娘にも楽しく見てほしい……そもそも「オペラは退屈なものだ」と思わせてしまったら、もう二度と、観たがらなくなってしまうもの。

そこで、ビデオ大好きの娘のために、まずは手持ちの「ラ・ボエーム」のビデオを取り出しました。ところがこのビデオ、イタリア語で歌っているばかりか、英語の字幕さえなかったんです! 「わかんな〜い! つまらな〜い!」と叫び出す前に、あわててオペラ名曲集の解説と、ビデオの箱に英語で書いてあるあらすじを見ながら娘に解説……しながら、「ふむふむ、そうであった。ああ、ここでこういう意味の歌をうたってるのね」と、親のほうも確認。でも、いったん物語の世界に入ってしまえば大丈夫だったらしく、ミミの最期にロドルフォが絶叫する場面では、娘はほろほろ涙を流しておりました。とりあえずは安心。

でも、安心するのはまだ早い。公演までの2〜3週間、朝食や夕食のときに、さりげなく「ラ・ボエーム」のCDをかけることに。何度もかけて、親のわたしのほうも耳が慣れてきた頃、娘も「あ、ここで派手な格好のおねえさんが歌ってる」(第二幕のムゼッッタのことです)などと言い始めました。「そうそう、ここで町の子どもたちなんかがいっぱい出て来るんだよね〜」と、ビデオで見た場面を思い出させたりして、期待を高めようとするわたし。

さらに当日。まずはちょっとだけ普段とは違うおしゃれをさせる。そうしたことも期待を高める要素のひとつ。劇場で席に座ってから開幕までは、パンフレットを使って「あらすじ」や出演者を確認。エンジェル・コーラス(金沢のOEK専属の子ども合唱団)のメンバーのなかに知り合いの名前を見つけたり、舞台の背景を金沢美大の学生さんが描いたというエピソードを娘に話したりして興味をそそる。

そして高まる期待とともに幕開け、そしてもちろん、幕間には「良かったね〜」と前の舞台を振り返り、次の幕のあらすじをおさらいしておきました……結果的に、2時間半にわたって娘の目は舞台に釘付けだったので、わたしのほうもちゃんとオペラを堪能できました。最後のシーンでは親子二人してしっかり涙を流しちゃったし。(分かっていても泣いてしまうところは、本当にわたしにそっくりな娘です。)

上記の手間を面倒だという人もおいででしょうけど、これは英語を自発的に学ばさせるときにも応用できることばかりだと、わたしは思っています。何事も準備が必要。自分のキャパシティーに対して余裕のあるものでなければ、全くの予備知識なしに投げだしても楽しめないんです。じつはわたし自身、オペラを観るようになったのは、ここ10年ほどの話なので、偉そうなことは全く言えないのだけど、特にオペラのような総合芸術はそれだけでは楽しめないように思います。同じテーマのものに、いろんな形でくり返し触れることで(ビデオ、本、CD、舞台、親の語り……)理解が深まり、味わえるように(英語なら使えるように)なるのだと思うんです。(かといって、あまりにカチカチに決めすぎては、楽しむことや応用することができなくなるので、その頃合いが難しいのですが。)