前にも書いたような気がするけれど、幼い子どもとその親を対象とした“英語絵本よみきかせ会”の場合、何より重要なのは英語絵本への関心をかきたてることだろう。英語絵本に親しませ、近づいてみたい、手に取りたい、読んでみたい、読んでやりたい……と思わせることだ。そのために、よみきかせ会の読み手は、適度なモデルになればよい。よみきかせ会では、必ずしも朗々と本の世界を詠じたり、物語の登場人物になりきって演じてみせることはない。むしろ、読み手があまり巧すぎると、ちょうどのまりんさんの紙芝居に対してわたしが感じているように、「自分はああはなれない」という諦めが生じる。英語絵本よみきかせ会では、英語絵本よみきかせを行なってみたいと思っている人の参考になるようなことを提供すればいいのではないか……。

と、ひとくちに言っても、じつは大きな問題が残る。日本語本のよみきかせの場合、聞き手の側の日本語能力は、ほぼ常にある程度の水準を満たしている(と期待できる)。「おはなしを楽しめる」程度の語学力は、当然の前提になっているのだ。となれば、登場人物やストーリー展開といった物語そのものの魅力(+話術、エンターテインメント性等々)を提供すればいい。日本語のよみきかせ会に来る人は、日本語の勉強をしに来ているわけではなく、基本的には「ただ楽しみに」来ているからだ。

ところが、英語よみきかせの場合はそうはいかない――純粋に「英語の物語を楽しみに」来ている人は、ほぼ皆無だと言ってよいだろう。自分自身は全く英語がダメだからという理由で、“英語が上手な人のよみきかせ”に子どもを触れさせたいと思ってやって来た人と、英語力は十分にありながら、子どもの成長に合わせてどんな本を読めばいいのかを知りたいとか、どんな読み方をすれば効果的なのかが分からないといった理由で、よみきかせ会に参加してみようと思った人のニーズは全く異なる。一定水準の語学力を前提にできないのだ。特に標準的な日本人の場合、いくつか「分からない単語」が混じっただけで、もはや「理解不能」と思いこみがちだ。

となると、少なくとも、まず導入としては、英語自体が平易なものを選ぶのはもちろん、聞きに来る人の大半が物語の筋を知っているだろうものを選んだほうがいい。さらに“英語本よみきかせ”ではなく、“英語絵本よみきかせ”に絞ろうと考えた。絵の力を借りることで「(英語でも)絵本は楽しめるんだよ」というメッセージを伝えようとしたのだ。だから、絵本の絵を拡大したり、模型みたいなものを作ったりもした。

ところが、そうすることで、実際には「紙芝居」に近いものになってしまった。だったら、既成の英訳版紙芝居を使えばいいんじゃないか……そう思って調べたら、英訳されている紙芝居【紙芝居はもともと日本の文化なので、オリジナルはすべて日本語】のほとんどが日本文化紹介を兼ねた日本民話であって、英語のネイティヴを対象にしているため、かえって難易度が高いことが分かった。これじゃ使えない。

最終的に行き着いたのは、最近の“英語早期教育熱”の影響で次々と誕生している日本語の赤ちゃん絵本の英訳版だった。それなら多くの親子が筋を知っているし、もとの日本版のほうでも乳幼児の“日本語力”は前提とされていないので、絵だけで子どもは楽しめる作りになっている。もとの文章が非常に単純なので、英訳版の英語も非常に安易であり、たいていの親が問題なく理解できる。

ずっとこの手の本ばかり読めばいいと考えているわけではない。よみきかせ会は“導入”にすぎない。英語絵本のよみきかせを続けることで、親も子も徐々に英語力をアップしていけば、より難しいものも読めるようになっていくので、選択の幅がぐっと広がるはずだ。そこで次に考えたのは、“よみきかせを通じて親の英語力をアップするための本”の紹介だった。(明日の日記に続く)