「子どものために親がただひたすら犠牲になる」のは、基本的によろしくないことだとわたしは考えている。だから、英語本のよみきかせが親の苦行になってしまってはいけない。子どもへの英語本よみきかせを通じて親が自分の英語能力をアップできれば、それに越したことはないのだ。

それを実現するためにはどうするか……と探して行き着いたのが、英語多読法であり、ORT(Oxford Reading Tree)である。ついに我が家にもORTのステージ1〜3まで9セットが届いたので、その内容紹介はいずれしたいけれども、ともかくも今のところORTにはかなり満足している。その理由を簡単にあげよう。

・クオリティが高い(絵がきれいで味わい深い、シンプルながら味のある文章、飽きさせないストーリー展開、学習効果が高いetc...)
・音源(CD)付き
・(小1の娘にとって)長さが適切
・そして何より、親も楽しめるし、学べる。

はるか昔にTOEIC800点を取得しているわたしだけど、このシリーズの数冊を読むことで“cross”というイギリス英語を学べた。もちろん「cross=不機嫌」といった辞書的な定義は知っていたものの、さまざまな場面で使われているのに接したことで、初めてそのニュアンスを掴めたのだ。大人が子ども向け絵本などを使って英語多読をしていくと、この種の発見があるという話は聞いていたが、なるほどと思った。

わたしのように、ほとんど日本の中だけで英語を学んできた者には、日常会話で使われている、とても易しい、ごく当たり前の表現にはかえって触れる機会が乏しい。英語圏の子どもたちがとても幼いときに身につける常識を知るチャンスがないのだ。たとえば、ORTの一冊を通じて、縄跳びは“skip”するものだと知った。もちろん縄跳び自体はjump-ropeだと知っていたけど、(そしてたぶんjumpという動詞も使えるのだろうけど)少なくとも“skip”という動詞を当てはめうるとは考えたこともなかった。

余談だけれど、つい昨日、別の動物の親子が出てくる全8頁の赤ちゃん用絵本を通じて、ロバの子はfoal、カンガルーの子はjoey(豪)と呼ぶことを知ったばかりだ。去年の3月、オーストラリアに行ったとき、この語、どこかで見かけたけれど、何のことかわたしは気づいていなかった! だってリーダーズ第二版にだって載ってなかったんだもの!!

また、英語のナースリーライムやマザーグースと触れるようになって、大人が読む“英文”のあちこちに、“子ども時代の常識”が差し挟まれていることを思い知らされてきた。牛がお月様の上を飛び越えるとか、猫がヴァイオリンを弾く……なんて表現が、マザーグースから出ているだなんて、知らなかったしね。翻訳者修業時代にマザーグースを読むべしとの忠告は受けていたけれど(実際、少しは読んだけれども)、英語をしゃべる人々の“常識”を知らなかったことで、おそらくわたしはあちこちで数多くのニュアンスやら、言葉遊びやら、ジョークやらを読み落としてきたに違いない。

話をORTに戻すと、登場人物たる3人きょうだいの名は、姉がBiff、兄がChip、弟がKipperである。Biffはどちらかといえば男の子の名前で“hit(殴る)”の意味がある……つまりおてんば?と思うと、Chipと殴り合いのケンカをしてることを思い出す。Chipには「父親似の男の子」の意味があると分かれば、挿絵の顔が父親そっくりであるのに気づかずにいられない。Kipperはガキんちょといった意味で、これはいかにもぴったり。おまけに飼っている犬の名はFloppy(よれよれワンちゃん)というのだから、これまた笑える。

子どもの本はバカにできない……少なくとも、わたしはしっかり「学ばせていただいている」というのが、今の実感だ。