英語絵本を選ぶ基準

一昨日の日記に、「わたしの教室では……中学の前倒し教育ではなく楽しい形で――絵本を使って――フォニックスを教え」ていきたいと書きました。

絵本を使うと言うと、マンガを採り入れている最近の教科書同様に、単に「子どもにとって楽しいから」だと思う人がいるようです。その裏には「マンガや絵を使うのは幼稚」だという含みがあります。そこから絵本を使うことを、「本離れのひどい最近の子どもたちの興味を惹くためにしかたのない」方法だと感じる人もいるかもしれません。

でもわたしはそうではなく、英語絵本の導入にもっと積極的な意味をもたせています。端的に言えば、ある種の「異文化体験」として位置づけているのです。

たとえば“I Spy”というタイトルのCTP絵本*1があります*2。冒頭に出てくる“Spy, spy, I spy...”というのは日本人にはなじみのないフレーズですが、英語圏の人なら誰でも知っているtraditionalな(子どもの暇つぶしの)遊びに基づいています。この絵本に出てくる女の子は、トレンチコートに拡大鏡という出で立ちで、いかにも探偵さんかスパイのようです。ここでわたしたちは、辞書の“spy”の項目を見ても分からない、この言葉がもたらすイメージや文化的な背景を知ることができますし、この創造的かつ想像的なゲームそのものを学べます。

たとえばこちらのページでは、I Spyのゲームに使えるイメージ(画像)をいっぱい紹介しています。「ミッケ(I spy)」を知らなかったら、ここで紹介されているような画像を見たときに、「何とか言葉で説明しよう」という動機すら働かないかもしれません。“I Spy”のゲームを知ることで、子どもたちは、それまで言葉で説明する必要性に迫られなかった様々な(多くは奇妙な)画像と向き合い、「これをどう表現するか」を考えるという素晴らしい機会をゲットできるのです。これは単なる「語学学習」というよりも、観察力を養い、思考法を学ぶことに通じる文化的な学習に他なりません。

また英語圏で作られた良質の絵本には、単なる「子どもだましの挿絵」の域を超え、文芸作品としても、ビジュアル的にも完成されたものが多々あります。わたしは子ども向けだからといって、何であろうとマンガのキャラクター*3をもってくるようなやり方があまり好きではありません。絵や音楽はできる限り“本物”を与えたいからです。わたしにとって“本物”かどうかを見分ける端的な基準は、大人の鑑賞に堪えるかどうかです。前に紹介したジャン・ブレットやピーター・ラビット、CTP絵本、タドキスト*4に大人気のORT*5の絵本などは、この基準を満たしていると言えるのではないでしょうか。

絵本は情操教育にも役立つと言われます。まさにそうした要素をわたしは英語学習に用いる英語絵本にも求めています。だからこそわたしは、一部の「学習絵本」のように英語と子どもに受ける絵がくっついていれば何でもいいとは考えていません。美的にも“本物”であり、なおかつ学習効果も高い、“質のいい絵本”を選び抜ける目を(自分にも、子どもにも)養っていきたいと思っています。

*1:Creative Teachers' Pressという英語教材会社が制作した絵本

*2:日本でもヒットしている『ミッケ』シリーズの絵本とは別物です。

*3:たとえばアンパンマンドラえもん

*4:英語多読法による英語学習者

*5:Oxford Reading Tree