夏休みの宿題

もうじき夏休みも終わり。ちまたでは「宿題、終わった?」の言葉が飛交っている。先の日曜のちびまる子ちゃんも、サザエさんも、新聞の連載漫画も、その話題でもちきりだった。

娘の小学校では、2年生はまだ自由研究や工作が必須ではなく、何かしらひとつ「作品」を出せばいいことになっている。最初はいろいろと画策して、爪楊枝を水に浮かせて一端に石けんをつけ、走らせる実験を行わせたり、アリの巣の観察セットを組み立ててアリを育てたり(1ヵ月前に山で10匹捕まえてきたうち、今も1匹だけ生きている)、中に針金を入れて自在に手足を動かせるくねくね人形を作らせたり、学童での凧作りを手伝ったりとかしていたのだけど、結局、どれも中途半端で完成品には至らないか、あまりにショボイ出来で提出したいような“作品”にはならなかった。

「どうするの?」と娘に迫ったら、前日の夜に読んだ絵本をもとに「紙芝居」を書くと言い出した。そんな思いつきばかり言って、本当に描けるのかしら……?と思いながらも、全体の構成と手順を説明し、どの紙に何を描くかを一緒に決めていって下描きさせた。そこからは一人で意外なほど根気強く続け、下描きを元に10日間ほど毎日1〜2枚ずつ絵を描いていき、最後に文章を書きこんで、昨日、いちおう全12枚の紙芝居ができあがった。字も絵も荒っぽくてへたくそだし、ところどころ若干の修正は必要だけど、自分が描きにくい難しい構図のページは飛ばし、話のつじつまをつけてセリフを変えるなどの工夫をしたのは、まずまず評価できると思う。親としては、こういうことをちゃんとやりとげられるという娘の一側面を知ったことも嬉しい。(何しろ飽きっぽくて根気がないと常々思っていたから。)

一方、思ったとおりと言うべきか、自由提出の感想文のほうは全く何も書かなかった。そもそも、指定図書を一冊も読んでいない。いや、指定図書どころか、親が「これは読ませたい」「これなら読むはず」と思って買ってきた本でさえ、全然見向きもしない。毎日の課題になっている「音読」も、自分の読みたい簡単な本ばかり持ってくる。(さすがに小学館の『小学二年生』や学研の『科学』といった雑誌の記事は、音読をやった分に入れないよと禁止したが……。)時には、日本語の本よりもはるかに簡単なORTを持ち出してきたりもした。「音読の宿題は国語の勉強なんだからダメだよ」と言ったけど、音読の記録をつけるプリントを見ると、どこにも「国語」とか「日本語」といった言葉はない。「本を読む習慣をつけると考えれば、まあいいか……」と何度か許してしまった。

ありがたいことに、娘には本を読む習慣だけはしっかりついたようだ。親に読んでもらうのも好きだし、自分で読むのも好きだ。ただ問題は、「簡単なものばかり」読むことだ。本屋に行くと講談社の350円絵本シリーズのコーナーなどに行っては、延々と立ち読みしている。(あのコーナーを好きな子は多いようだし、見ているとけっこう大きな子も立ち読みしているけれども。)椅子やカーペットに座って読み放題のビーン*1は大のお気に入りで、一度行くと2時間でも3時間でもとっかえひっかえ本を見ている(読んでいるとは言えないケースが多い)。

どうにかしてもっと学年相応の「ちゃんとした本」を読んでくれないかなぁ……と思ってきたのだけど、ある時、英語に関しては多読を勧めていながら、日本語では「簡単なものを大量に」読んでもダメだと思いこんでいる自分に気が付いた。それはおかしい。多読は日本語でも有効なはずだ。

ブリティッシュ・カウンシルの多読の説明によれば、多読を実施する主な目的は「生徒たちに英語を読ませることと、読むのを好きにさせること」である。「より流ちょうに読めるようになること(an increase in reading fluency)」も、もう一つの目的だという。

「本の虫」だった自分の経験に照らしても、大量に本を読み飛ばしていくと、あまり簡単な筋書きのものでは飽き足らなくなり、次の段階に行きたくなるものだと思う。そうだとすれば、娘はまだ「すごく簡単なレベルの本」を飽きるほどには読んでいないだけなのだろう。(そして、どこまで読めば堪能し、飽きがくるのかは、個人差が大きいのだろう。)

娘の「紙芝居」の筋書きは非常に単純なものだ。何しろ元が幼稚園児くらいが読む絵本なのだから。それでも、自発的に作品を作ろうと考え、実行したことはちゃんと誉めてやるべきだ。「簡単な本ばかり読んで!」という親の苛立ちは、親の勝手な理想の投影に他ならない。その子その子の学び方、その子その子のペースというものがあるはずだ*2我が子のことになると、ついつい視野が狭くなりがちだけど、もっと広い目で見て行きたい。

*1:ビーンズ(明文堂)とは、金沢の駅西地区にこの夏できた“日本最大級”というふれこみの本屋。実際、品揃えが良いのでわたし自身よく行く。金沢に来て初めて、英語の絵本や教材を手にとって選べるようになったのが嬉しい。

*2:MI理論(Multiple Intelligence Theory)によれば、知性とは一元的に計れるものではなく、人間には8種類もしくは9種類の知性がある。どの種の知性が強いかによって、学び方も変わってくる。全員が「ちゃんとした本」を読むことで読解力や理解力を伸ばせるとは限らないのだ……そのことを、親としても教師としても自戒したい。