「英語を話す」子

このところ、英語を話せる小さな子どもと出会うことがしばしばある。昨日は公園で流ちょうな英語で話をしていた母子と出合った。娘が「英語の人だ」と気づいたのだ(ちなみに、この言い方はやめなさいと言っているのだけど……せめて「英語を話せる人」だろう)。

外国人かなとも思ったけど、勇気を奮って話しかけてみたら、“帰国子女”の3歳児とそのママだと判明した。お子さんの英語が消えないように、せめてもと思ってご自分では英語で話しかけているのだとか。でも、こちらで幼稚園に入ったので、すぐに日本語だけになってしまうんじゃないかと心配していらした。英語力を維持している知り合いの帰国子女の話をしたら、関心を示していた。

一方、0歳から子どもを英語漬けにしてきて2年くらいたった時に、「子どもが英語を話し始めた!」という事例は本当にあちこちで聞く。そうした子のママから「どうすればいいのか?」と相談を受けることもよくある。

……わたしは自分の娘や何人かの知り合いの例しか知らないし、じつは、うちの娘が2,3歳の頃の我が家の英語方針は揺れ続けたので、紆余曲折の経験のなかから答えるしかない。そのなかからあえていえば、結局は、「英語を使う機会」を与え続けることしかない……とは考えてきた。なにしろ、大人でも「英会話上達の最良の手」は、英語でコミュニケーションを取るしかない人を恋人にもつことだと言われる。語学力は学習のたまものというよりも慣れの問題である。英語を使いたいし、使うしかない状況に置けば、英語学は伸びるのだ。

ただし、現実的にそうした機会を(しかも金沢のような地方で)豊富に得るということは、なかなか難しい。都会だったらいろんな機会も場所もあるだろうけど、地方にいると出会いも少ないし、個人的にお金でサービスを買う(たとえば外国人講師を雇う)にしても、どうしても限界がある。

じつは我が家の場合、こちらに引っ越してきて、英語イマージョン教育を受けさせるのは無理だと判断したとき、英語での片言が出始めていた娘に対して、いったん「日本語のシャワー」方式に切り替えている。それまでは娘の日本語力がさっぱりつかなくても、「英語のほうが育ってるみたいだし、インターナショナル・スクールに入れればよい」とゆったり構えていたのだけど、地方で暮らすことになったとたんに、小学校までに日本語力をつけておかなくちゃまずいと焦ったのだ。英語の片言が消えることが惜しいとは、特に思わなかった。英語を自然習得できるほどの環境を与えられない限りは、日本語を優先しよう、英語はフリルでよいと考えたからだ。ところが、娘の口からはちゃんとした「日本語」がなかなか出ず、すばらくして、もしかしたら“先に入った”英語を引き出してやることで、かえって日本語も伸びるのではないかと考えるようになった。

そこで、いろいろと試してみた。普通の英会話教室を皮切りに、インターナショナル・スクールの土曜レッスン、外国人講師のグループ・レッスン、外国人講師を雇っている英語教室……だけど、外国人(特に英語のネイティブ・スピーカー)の時給はやたら高いので、週に1回1時間がせいぜいだ。それ以上に、その高い時給に見合うだけの実力をもつ“いい先生”はめったにいない。おまけに、たとえいい先生が見つかっても、一人の講師に数人から時には10人以上も見てもらうとなれば、その分だけ、一人当たりのコミュニケーションの密度は薄まる。それでは、「外国人に教わっている」という満足感を除けば、あまり効率のいいやり方だとは思えなかった。

最終的に、我が家では、わたし自身が英語サークルを作ったり、英語を教えたりしはじめることで、身近に“英語環境”を作っていくことにした。英語絵本の収集を開始し、よみきかせボランティアも積極的にはじめた。シーズンに1回の英語パーティ(信頼している英語ネイティブ・スピーカーの先生も来てくれる)や日常生活の中での英語遊び、英語でうたうゴスペル・グループへの参加など、英語活動をする母のそばで、娘は無理なく英語力を伸ばしていっている……ように感じて、今は少しほっとしてるところ。

そんな経験を踏まえて、英語育児をしているママたちにお伝えしたいことがあるとすれば、「英語力を維持(あるいは育成)する」ことで、「日本語の伸びが遅くなる」ことは、ある程度、覚悟しなければならないかもしれない……ということです。0歳から英語漬けにしてしまった子は、4歳半くらいまで英語も日本語も出ないことがある……ということをどこかで耳にして、わたし自身がずいぶん安心したものです。今でも娘は日本語の「文章題」が苦手なんですが、「何であんたはできないの!」ではなく、英語を生業にしている母のもとに生まれた運命を諦めておくれと、ゆったり構えて娘を追い詰めないようにしています。

それに、語学の習得は非常に個人差があります。能力だけではなく、それぞれの子が置かれた環境にもよるし(きょうだいがいるか、親は英語で話しかけるか、祖父母はどうかなど)、その子の性格にもよる(集中力のある子ほどビデオの影響が大きいような気がします)。

「2歳までに始めないと遅い」とか、「隣の子は5歳で本を暗唱してる」などと、年齢で切ったり、よその子と比較したりするのは、やめましょう。わたしも親なので、焦る気持ちは分かるけど、焦っている自分に気づいたら、肩の力を抜くようにしましょう。英語がすべてじゃないのですから……。