過熱化する英語教育産業の売り込み

今朝の北陸中日新聞で、幼児向け英語教材の勧誘に関するコラムを見かけた。「高額な商品を買うのは控えるほうがいい」「購入の意思がなければきっぱりと断ろう」と、あいかわらずの警告が発せられている。

ネット上では、ある消費者相談で、「巧みなトーク、長時間にわたる勧誘を受けて、冷静に考えれば全く不要に思える高額なパソコン教育ソフトのセット」を100万円、200万円と購入してしまったという事例も見かけた。この方、ちゃんと解約できていればいいのだけど……。

一方、うちの小3の娘に送られてきた某社の英語自宅学習教材の広告は、「2011年の小学校英語必修化」と、「2012年の中学英語授業数増加」をもって、親の危機感と焦りをあおっておいて、「うちの子だいじょうぶかな」「苦手意識を持ってつまずいちゃったりして……」という親の心配に、自社と契約すれば「安心」だと食らいつく。

いまや英語教育産業界は、人の心の弱い部分につけ込むコンプレックス産業になっているみたい……。英語の仕事に関わっている身としては、まったくもって情けなくなる。そのベースには、学校の英語教育重視を「英語教育の充実」とは見ず、英語の競争激化にほかならないと見ている(誤解させられている)親たちがいる。その背景にちらほら見え隠れしているのは、親の「英語への苦手意識」と、「英語学習は難しい」という思い込みだ。

必ずしも「騙された」わけではなくとも、結果的に不要なものを購入してしまったという経験は、我が家にもある。我が家は娘がゼロ歳のときにある多言語サークルに加入し、1年ちょっとで退会しているのだけど、そのとき何十万もかけて教材を購入した。先日、その教材がふと出てきた。未開封のCDも多いそのセットをもったいなく思い、娘が大きくなったら使えるかもしれない……と、取って置いたのだ。よく聞いていたCDを1枚、かけてみた。だけどその内容は、多少なりとも児童英語教育について学んできた今になれば、必ずしもいい教材だとは思えない。サークルに入っていて、「はまっている」時であれば楽しめたのかもしれないけれど、純粋な教材として使うなら、同じお金でもっと他の物を買うべきだったと悔やまれる。

ただし、その経験のおかげで、あちこちでお試しCDがばらまかれているような有名な英語システムのセットの数々は、購入せずに終わった。(ただし、お試しCDはすり切れるほど聞いたし、それに対応したDVDはネットでばら売りされていた中古で1枚だけ入手し、2-3年ほどは時々見ていたけれども。)その手の教材は、何度も真剣に購入を検討した。だけど、最終的に購入しなかった理由は、
その英語システムの未使用中古品がしばしばオークションに出ていたからだ。つまり、使わずに終わってしまった人がけっこういるというわけだ。そこで気がついた。子どもが何年にもわたってたったひとつの会社のキャラクターしか好きじゃないなんてことは、まず、ありえない。2-3歳の頃の我が娘は、ディズニーも、セサミストリートも、あれも、これも、大好きだったけど、うん十万というお金をかけて、1、2年しか使わないのではもったいないし、数ヶ月、いや数回では、なおのこともったいない。それにわたし自身も、娘をディズニー一色、セサミ一色……とひとつのキャラクターにはまるような子どもには育てたくなかった。(個人的には、どちらも好きだけど。)

前からくり返していることだけど、高価な教材セットを購入するかどうかを迷っている人には(大金持ちで、何十万円、何百万円が無駄になっても惜しくない人は別にして)、基本的に買わないほうをお奨めしたいです。もし買うならば、シリーズものの中から単品でいろんなタイプのものを聞かせてみるところから始めるといいですよ。そのうちに、子どもの好きなものが見えてくるし、そうなってからシリーズものを揃えたり、同じキャラクターのものを集めたりしていっぱい聞かせる。(普通の日本人環境で暮らしている子どもに英語環境を与えたければ、まずは聞くことから始めるのが基本です。)

それから、週に1回だけのレッスンでは、ほとんど何も身につかないということを知ってほしい。小さいお子さんの場合は特に、週1のレッスンで先生にお任せではなく、ともかくも家庭の中にいっぱい英語環境をもつことを考えましょう。わたしはそれを「英語IKUJI」と言ってきたけど、つまるところ、親も一緒にやれば一石二鳥だし、結果的に家庭内の英語環境を増やすことができるんです。

「わたしは英語が苦手だから、せめてこの子だけでも」ではなく、「わたしは英語が苦手だから、子どもと一緒に英語に触れよう」と考えましょうよ。子育てを制約ではなく、チャンスに変えるためには、親も一緒に成長できる道を選ぶというのが重要なポイントです。